The side of Paradise ”最後に奪う者”

「遅くなって悪かったな」


涼は置いてあった弁当の蓋を少し持ち上げた。


「夕食も食わなかったのか?
 おまえが好きなお稲荷さんが入ったのに、してもらったんだけどな」


気が付くと綺樹の視線が弁当箱に落ちていた。


「食べるか?」


蓋を開け、弁当箱を綺樹の目の前に持ち上げた。

しばらく見つめてから手が上がった。

口にしたのに涼は嬉しそうに笑った。


「やっと食ったな。
 上手いだろう」


綺樹は一口かじって、その齧り口を見つめ、そのまま弁当箱に戻した。

ご飯にゴマを混ぜ込んでいるお稲荷さんだった。

綺樹はゴマが嫌いだ。


「おまえっ。
 その手をどこで拭こうとしている」


背広で拭かれそうな勢いなのに、涼は弁当をほおり置いて綺樹の手首をつかむと、お絞りを押し付けた。
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