The side of Paradise ”最後に奪う者”

「あの男、あなたの様子がおかしいのに、あせっていましたよ」


ごとりと綺樹は持っていたグラスを床に置いた。

立てていた膝に額をつける。


「うんざりだ」


綺樹が口にしたのは英語だったが、日本語だとそういう意味だった。

いやスラングだったから、“うざい”という方が近いか。


「まあ、そう言わずに。


あの男もあなたに関しては、心配性なんですから」


「いつも、うじうじ悩んでいる。
 生産性がない。
 しっかりしろと張り倒せよ。
 こうやって悲劇のヒロインぶって、男の気を惹いている。
鼻持ちなら無い、こんな女など、捨てておけばいいんだ。
ゴミだ。
ゴミでしかない」


成介は口を開いて、閉じた。

どうやら、どっぷりと自己嫌悪に溺れているらしかった。


「あなたが。
 あの男みたいに、前向き過ぎたら、気持ち悪いですけどね」


なんとなくフォローする。
< 621 / 819 >

この作品をシェア

pagetop