The side of Paradise ”最後に奪う者”

「聞けば聞くほど、あなたが私に幻滅するような話。
 楽しく過ごす。
 瞬、それがあなたのモットーだろ?
 今の夢の中を生きるような日々を楽しもうよ。
 現実は仕事場だけ」


綺樹は茶目っ気たっぷりにウィンクした。


「さ、そろそろ現実世界に行く時間じゃないの?」


瞬はちらりと腕時計に目を走らせた。


「そうだね」


立ち上がる。

綺樹も見送るために立ち上がった。

玄関ドアのところで瞬は腕の中に抱いた。


「はい、キスして」


綺樹はその言い方に笑ってから軽くキスをした。


「いってらっしゃい」


返事の変わりに綺樹の額にキスをして出て行った。

白くけぶるような光に包まれたダイニングに戻る。

本当に夢の中の世界のようだ。

あるいはもう一つの人生。

綺樹は少し両腕を開いて、深く息を吸い込んだ。

もう少しだけ味わっていたかった。
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