The side of Paradise ”最後に奪う者”

    *

親の会社だから、周りの目なんて気にしないで、さっさと退社できる。

そもそも自分が真面目に残って、がっつり仕事をしていたら、周りが窮屈だ。

こっちが不真面目だったら、周りは悪口が言えて団結できるというもんだ。

瞬らしい論理で、後ろめたさをほおり投げる。

瞬はせくようにして家の玄関を開けると、リビングの電気がつきドアが開けはなれていた。

バッハが流れている。

廊下を歩いていくと書斎のドアが開け放れていた。


「おかえり」


床に座り、書棚に寄りかかっていた綺樹は、瞬を見上げてにっこりと笑った。


「ただいま」


瞬は綺樹の前に膝をついた。

綺樹の周りには書棚に入っていた法律書が開かれたり、伏せられたり、積み上げられてしていた。

この家でファッション雑誌以外を読んでいる女性は初めてだ。


「何しているの?」

「解釈を読み比べていた」


のけぞるようにして、寄りかかっている書棚を見上げる。
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