The side of Paradise ”最後に奪う者”
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親の会社だから、周りの目なんて気にしないで、さっさと退社できる。
そもそも自分が真面目に残って、がっつり仕事をしていたら、周りが窮屈だ。
こっちが不真面目だったら、周りは悪口が言えて団結できるというもんだ。
瞬らしい論理で、後ろめたさをほおり投げる。
瞬はせくようにして家の玄関を開けると、リビングの電気がつきドアが開けはなれていた。
バッハが流れている。
廊下を歩いていくと書斎のドアが開け放れていた。
「おかえり」
床に座り、書棚に寄りかかっていた綺樹は、瞬を見上げてにっこりと笑った。
「ただいま」
瞬は綺樹の前に膝をついた。
綺樹の周りには書棚に入っていた法律書が開かれたり、伏せられたり、積み上げられてしていた。
この家でファッション雑誌以外を読んでいる女性は初めてだ。
「何しているの?」
「解釈を読み比べていた」
のけぞるようにして、寄りかかっている書棚を見上げる。