The side of Paradise ”最後に奪う者”

「だろうね。
 特定のピアニストのCDしか置いていないなんて、恋人か家族だ。
 ちゃんと聞いてあげているんだ。
 優しいね」

「送りつけてくる上に、次に会った時は感想を求められるんだ。
 僕にだけだよ。
 兄貴たちは忙しいから可哀想。
 遊んでいるんだから、あなたには時間があるでしょ、だそうだ。
 単に良かったよと誤魔化せば、どこの部分がどう良かったのかと突っ込んでくる。
 やな母親だよなあ」


綺樹はくすくす笑う。


「だって辛辣に言ってくれるのは家族ぐらいだろ?
 有名になればなるほど周囲は本心を言わなくなる。
 支えなんだよ。
 流されないための。
 そうか。
 あなたには音楽の聞き分ける力もあるのか。
 音感とリズム感は、ある程度生まれつきだから。
 そういうのがある人にじゃないと、意見は求められないな」


瞬はため息をついた。

仕事といい、ピアノといい、瞬が時として卑屈で後ろ向きになりそうなのを、優しくくるんでくれる。
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