The side of Paradise ”最後に奪う者”
22.すべての駒はそろった
*
物事が凄い勢いで動く“時”というものがある。
それはビジネスに携わっていた時に何度も経験した。
綺樹は、またその動きの時であるのを、ユーリーに会って感じた。
携帯に電話があって、東京公演なんだ、と告げられた。
「来る?」
「行くよ。
もちろん」
「じゃあ、会場のフロントにチケットを預けておくから」
涼に告げると、気を付けて言ってくるように言われた。
一緒に行く気はないらしい。
大方、途中で寝てしまうのが判っているのだろう。
成介を誘おうかとも思ったが、結局は一人で出かけた。
曲目はモーツァルトのバイオリン協奏曲7番だった。
春の明るい夕べ。
花が咲き乱れる庭園で、若い貴族の男が恋人に愛をささやく。
そんなイメージの曲が、物憂げで悲しげな音色になる。
ユーリー自身、どうしようもないようだった。
オーケストラの明るく朗らかな演奏と分離している。
残念ながら、今日のコンサートはお世辞でも成功とは言えなかった。
ユーリーもわかっているらしく、楽屋を訪れると茫然とした様子でソファーに座っていた。
綺樹は隣に腰を下ろした。