The side of Paradise ”最後に奪う者”
23.ハレルヤ!
*
それは春の夜だった。
しかし暦上のこと。
東京は冷え込みが厳しく、空は羽毛布団のように、灰色の膨らみのある雲に覆われていた。
綺樹が妻に戻って、また1年が経とうとしていた。
発作は数回あり、精神状態も波があったが、驚くほど平坦な1年だった。
驚くほど。
嵐の前の静けさのような。
涼は西園寺の屋敷の中で綺樹を探していた。
「綺樹を見なかったか?」
通りがかった藤原に聞く。
「いえ、食後のコーヒーを召し上がった後は。
コンサバトリーでしょうか。
探して参ります」
子どもが“かくれんぼ”をするのに楽しめる家とはいえ、小柄でも綺樹は大人だ。
「綺樹」
大声を出しながら探していると、玄関ドアの外で返答があった。
コリント式の円柱が支えている玄関ポーチに佇み、門の方を見ていた。