The side of Paradise ”最後に奪う者”
坂を降りきって茂みを抜けた小川のほとりには先客がいた。
涼はまた再び体が固まった。
綺樹だった。
一人、ぽつりと立っていた。
頼りなさげな立ち姿で、川下をじっと見ている。
親とはぐれた少女のように、心細そうな横顔だった。
さっきとはまた違う風情に戸惑った。
声をかけてみたくなる。
顔を覗き込んで、どうしたのか聞きたい。
あの瞳の中を見てみたかった。
風がアルコールの匂いを運んでくる。
物音にちらりと涼と春香へ視線を流したが、何も反応を示さず顔を元に戻
し、背を向けた。
ホテルの方へ戻りだしたが、足元がおぼつかない。
相当飲んでいるのは明白だった。
ホテルへと上がっていく階段をしばらく見上げていたが、そのまま川下の方へと足の向きを変えた。