The side of Paradise ”最後に奪う者”

   *

調印が終わって内心のあまりの動揺にそのままバーに入った。

全く変わらない。

馬鹿だ。

綺樹は片手で顔を覆って嘲笑した。

当たり前だ。

記憶が無くたって本人なんだから。

いや、やっぱり別人なのだ。

私のことを何一つ覚えていないのだから。

だから、あの涼ではない。

ハイペースで大量に飲んでいくのを、バーテンが気遣うような視線を投げる
のがうっとおしくなり、バーを出る。

エレベータを待つ間にポスターが目に入った。

蛍の季節か。

部屋には戻らずに、そのまま庭へ出た。
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