神の愛し子と暗闇の王子
何故。

少女は早くなる鼓動を感じながら、ごくりと生唾を飲み込む。

何故、急に嫌な予感がしたのだろう。

ゆっくりと拡がって行くその染みがどういう経緯で出来たのか、少女にもさっぱり分からなかった。

心臓が早鐘を打つ。痛いぐらいのそれを鎮めようと深呼吸をしてみるが一向に治まる気配を見せず、少女の顔色がどんどん悪くなるのに気付いたのだろう。

黒髪の彼女は、驚いたように目を瞠った後、心配そうにこちらに駆け寄った。



「大丈夫? 何だかとても顔色が悪いけれど……」

「へ、平気……です」


無理やり笑みを形作り、少女は左胸をギュッとつかむ。

なんだこれは。一体どうしたと言うのだろう。

彼女が間近に来た瞬間に、頭の中で警鐘が鳴り響いた。

コイツは危険だ。逃げろ。

本能が、少女にそう告げている。

けれど、全く持って現状が理解できていない彼女はそれに従うことができなかった。

黒髪の彼女の紫の瞳が、少女を映す。

――刹那。彼女の瞳の色が燃えるような真紅へと変化した。




「なっ――!」



突然のことに驚いた少女は、ほぼ無意識に彼女の華奢な身体を突き飛ばそうとする。

が、少女の手が彼女に触れるより早く、爪が食いこむほどに強く腕を捕まれ少女は苦痛に顔を歪めた。

(しまった……!)

いきなり鳴り響きだした警鐘。

その意味がやっと分かり、少女は歯噛みした。

――あまり人に知られていない、聞きなれない名をした特殊な学校。

あの森の中を、唯一迷わずに歩けるモノ。

最悪だ。これほどまでに分かりやすい情報があったのに、全く気付かなかった。

少女は悔しげに唇をかみしめると、真紅の目をした彼女を睨んだ。

――狭間ノ学園。ここは、人ならざる者が通う場所。





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