神の愛し子と暗闇の王子
ぎりりっと、掴まれた腕に力が込められる。

彼女の綺麗に伸びた爪が皮膚に食いこみ、血液が彼女の指を汚す。

悲鳴をあげそうになるのを唇を噛んでこらえながら、少女は必死に考えを巡らせた。

どうする。

逃げ場はない。ここは獣の巣窟だ。人を捕食するモノたちが数多と存在するこの学園で、たとえ彼女から逃げおおせたとしてもどの道喰われるのは確実。

少女はちらりと、開かれたカーテンの隙間から微かに見える窓の外を確認した。

見えるのは、うっそうと茂る草木。

恐らくこの学園は、自分が迷い込んだ森の中に立っているのだろう。

ならば、学園の外に出たとしても飢えで死ぬだけ。

少女の表情に焦燥が滲む。

逃げ道は、ないのか。自分はここで彼女に喰われるのだろうか。

悔しげに歯噛みする彼女に、黒髪の彼女は勝利を確信した者特有の笑みを浮かべて綺麗な指ですっと少女の頬を撫でる。



「良いわね。その表情。最高よ」

「っるさい! 触るなっ!」

「あらあら。口の悪い子ね。仮にも命の恩人に向かって、その言葉づかいはないんじゃないの?」



しらけた表情になった彼女は、腕を握る手に力を込める。

鋭い痛みに呻く少女をベッドに押し倒すと、彼女はつっと少女の首筋に指を這わせる。



「――まぁいいわ。あなたの血は美味しいから、それに免じて許してあげる」

「血に免じてって……」



なるほど。彼女は吸血鬼か。

どうりで美人なわけだ。









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