【完】私は貴方を愛せない
私は彼に言われるがままついて行った。
私たちが乗ったタクシーは、高級マンション街へと吸い込まれていく。
運転手の目を盗んで
彼は私の手を優しく握ってきた。
私も彼の手を握り返す。
憎しみを込めて。
「ここだよ」
タクシーを降りて、私が見たのはとても大きなマンションだった。
中に入り、暗証番号で奥の扉が開く。
「こっち」
彼に手を引っ張られて部屋に連れて行かれる。
着いた先は最上階の一番奥だった。
扉の先へ向かうとマンションとは思えないほど広い部屋が私を迎えた。
一人で住むにはもったいないほどの。
「いつも帰ってきたって僕しかいないんだ。寂しいものだよ」
寂しい笑顔。
きっとこの人も整った顔立ちだから、女の人はこんな笑顔を見ればイチコロなんだろう。
私はそれを冷めた目で見つめていた。