【完】私は貴方を愛せない


「杏奈~とか涼介~とか呼び合いなよ!」



あかね先輩の言葉に私たちは苦笑いをする。


本当はちょっと前からそうしようとお互い話していたんだけど、やっぱり恥ずかしくてできないから。


「ほら!先輩の言う事は聞く!!!!」


「あかねさん理不尽っすよ」


「深田?なんか言った?」


あかね先輩の笑顔が妙に怖い。

なんだか深田君にはものすごい威圧。



「わ、分かりましたって!!」


深田君は私に向き直り、口を手で隠しながらぼそっとこう言った。


「杏奈・・・」



私は一気に恥ずかしくなって両手で手を隠す。


「前田ちゃん!」



あかね先輩の声が私を後押しした。

私は小さな声で「涼介」と言う。



それに満足したのかあかね先輩は口笛を吹きながら生徒玄関にスキップで行ってしまった。


取り残された私たち。


お互い顔を見合う事はできなかった。




呼び捨てで名前を呼ぶ事さえ恥ずかしかった。


全てが初めてで、先が見えなくて怖かった。



だけど幸せ。


そう思えたの。
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