【完】私は貴方を愛せない


「瀬川お前・・・!」


「痛っ!先輩!別にいいじゃないっすか。だって・・・こんなにも素敵な目をしてるんっすよ!?全然まだ新品・・・」


「だからお前それが駄目なんだよ!新品ってなんだ新品って!!」




二人のやり取りに私は少し笑ってしまった。

自然に笑ったのはいつぶりだろう。
もう、何年もなかった気がする。



「あっ!笑ってくれましたよ先輩!」


彼はまるで犬がしっぽを振っているように喜んだ。

椅子から笑顔で立ちあがって。



その時、
またふわっと柑橘系の香りがした。


これは私がホテルで気を失う時、誰かが私を抱きかかえてくれた時の香りだ。

そう思いだした。



「あの、私をホテルから運んでくださったのは」

私はちらっと瀬川さんの方を見る。


「あっえっと・・・俺です!僭越ながら!」


「そうだったんですか。・・・素敵な柑橘系の香りがしたので。瀬川さんだったんじゃないかなって」


「あっ!はい!この香水お気に入りなんっすよ!っていうか瀬川さんなんて呼び方止めてくださいよ~!前田さんの方が俺より3つ年上なんっすから!そうだなぁ・・・俺の事は別に斗真とかでも・・・」


「だから瀬川!!お前被害者にそんな馴れ馴れしくすんな!!」


「いったぁ・・・!先輩こそ何回も頭殴りすぎですよ!」





瀬川斗真。


私が出会ってきた刑事で今までにないタイプ。


だけど、
この事件以降関わる事はないだろう。


・・・私はまた違う場所で同じ事をするだけだから。
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