【完】私は貴方を愛せない
癒しの薬
「杏奈さん!?」
「・・・っ」
私は声を押し殺し泣きじゃくっていた。
こんなにも泣いたのは両親が死んで以来だろうか。
あかね先輩の死、
涼介との別れ、
両親の死。
私の全て。
そう言えたものがなくなってしまったあの時。
私は"復讐"という事で自分の心を精一杯保とうとしたのだ。
分かっていた。
だけど、それしか支えにならない。
私にはもう他に何もないんだから。
唯一の夢だったアナウンサーも涼介と別れた瞬間、はっきり言ってどうでもよくなってしまった。
涼介がいたからこその野球。
あかね先輩がいたからこその野球だった。
どうして思い出してしまったのだろう。
しかも斗真君の前で泣いてしまっているのか。
見た目は全く似ていないはずの斗真君と涼介。
でもとても似ている。
・・・似ている。
「杏奈さん・・・」
ふわっと柑橘系の香りがする。
私は斗真君に抱きしめられていた。