【完】私は貴方を愛せない
「前田さん、お目覚めになられたんですね」
そう言って入ってきたのは昔斗真君と一緒に来ていた吉崎さんだった。
「お久しぶりです」
「ええ、少し事情を聞こうかと思いましてね」
「分かりました」
「先輩、杏奈さんは今目が覚めたばかりなんっすよ?せめて担当の医師の話を聞いてからでも・・・」
「瀬川。記憶は鮮明な方がいいって事、お前も分かってるだろ?ここへはお見舞いだけに来てるんじゃないんだ。仕事に来ているんだ。肝に命じとけ」
「俺、先輩みたいな刑事には絶対なりませんから」
斗真君はまるで吉崎さんに反発するように病室を出て行った。
その後ろ姿が消えるまで吉崎さんも斗真君の背中を見つめていた。
「・・・すいません。あんな奴と最近よく一緒にいるそうですけど、相手にしなくていいんで。まだ若いもので・・・って言っても僕も今年で34でまだまだなんですけどね」
「うふふ。いえ、一緒にいて楽しいので。・・・元は被害者と刑事でしたけど、今は普通に友達なんです。」
友達。
私の口からそんな言葉が出るなんて。
自然に出てきたけれど、心の底では本当にそんな風に思っているのだろうか。
実際に向こうは恋愛対象として私を見てきている。
・・・そんな彼の事を友達だなんて。
「友達、ですか」
「はい」
「僕はそんな風に見えませんがね」
「・・・はい?」
「アイツは貴女に惚れてます。見たところ貴女も」
「・・・なんなんですかいきなり」
「貴女は昔たくさんのものを失くしたんですね」
「さすが刑事さんですね。そうですけどそれが何か」
「いえ、これからの捜査の参考にさせていただこうかと」
「捜査?相手はもう捕まったんでしょう?」
「別の件があるんですよ」
意味深な言葉を残して、吉崎さんはなぜか病室を出て行った。
斗真君に言ったわりには事件の事について何も聞いてきていない。