【完】私は貴方を愛せない



どれほど時間がたったのかは分からない。

とにかく柳沢さんを裏へ運んだ。


生気がないようにも感じられる。

私は仕事を抜けだし、椅子に座っている彼の傍へ駆け寄った。



「柳沢さん・・・」


「・・・ああ。アンナちゃんか」


「その、なんて声をおかけしたらいいか分からないんですけど」


「いいよ。全て俺が悪いんだし。・・・当然の結果だ」


「けど、私のせいでもあると思うんです。・・・私があんなところへ連れて行かなければ」


「・・・俺ら、後悔してばっかだな」


寂しそうに呟く彼の姿。

私はその姿に幸福感を得た。


他人の不幸は蜜の味。
特に私を不幸に陥れた彼の不幸は私にとってはちみつより甘いものだ。



「今日、柳沢さんの傍にいてもいいですか?」


「え?」


「こんな柳沢さん。ほっておけません」


「でも、俺。たった今妻に振られた情けない男だよ?・・・しかも酒の勢いで君を抱いてしまった。・・・最低だ」


「いいんです。それで、いいんですよ」


「・・・え?」


「私の夢教えてあげます。・・・それは柳沢さんの大切な人になって、傍で支えたい。そう思っていたんです。けど、貴方には幸せな家庭がある。だから言えなかった。心の中で封印しておくはずだった夢です」



誰もこないこの個室。


柳沢さんは何も言わず私を強く抱きしめてきた。




・・・彼は、私の罠にまんまとはまってくれたようだ。


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