契約妻ですが、とろとろに愛されてます

男の元恋人

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十五分ほど車は走り、着いた場所は高級感漂う近代的なフォルムのベイサイドに建つホテル。


ここって……真宮系列のホテル……。


ホテルのきらびやかなエントランスに車が停まると、外側からドアを開けたドアマンが丁寧に真宮さんを出迎えている。


真宮さんはドアマンと顔見知りのようで軽く会話をすると、茫然と佇む私の腕を取った。


エレベーターに乗せられて最上階のラウンジバーへ連れて行かれる。


「何を飲む?未成年じゃないよな?」


「えっと……私、お酒に弱くて……あまり飲めないんです」


先ほどの飲み会も最初の乾杯だけビールで、あとはオレンジジュースを飲んでいた。


「では 軽いものにしよう」


真宮さんは支配人にアルコールの度数の少ないカクテルを注文し、自分の分はいつものとしか言わなかった。


注文を受けるウエイターの青年は緊張しているみたいに見える。


そう言えば、真宮さんを入り口で出迎えた支配人のうろたえ方が面白かった。


思い出すと自然と笑みがこぼれてくる。


「何がおかしいんだ?」


「あ……支配人さんが慌てていたから ごめんなさい、笑っちゃって人が悪いですよね」。


「かまわない たまには刺激も必要だからな」


すぐにウエイターがチーズとフルーツの盛り合わせをテーブルに置いていく。


美しく盛り付けられていて食べるのが勿体無いくらい。


「あっ、私の名前を言っていませんでしたね 下山 柚葉と言います」


今更ながらだけど、名前を言った。彼は頷いただけ。


なんなんだろう……お芝居って、どうして私を連れて来たのか……。疑問が渦巻いている。


窓の外を見ると、雨はいつの間にか止んでいた。


夜景のスポットで有名なバーだけど、一面の窓から見えるのはどんよりとした暗さの中に時折点滅する橋のライト。


こんな天気でも、人気スポットのバーには数組のカップルがデート中。


他の人から見たら、私達もカップルに見えるのだろうか……。そう思うと、目の前の人を意識してしまいそう。


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