契約妻ですが、とろとろに愛されてます
ベッド脇の引き出しに写真を入れベッドから降りると、重い足取りでドアに向かう。


菜々美さんの匂いのするここに居たくなかった。



どこに行くあてもない。いつの間にか私は新鮮な空気を求めて、病院の屋上にいた。階段を登ったせいで、脱力感を覚え、足は震えていた。目についたベンチに座ると、浅い呼吸を繰り返す。


こんな気持ちになるなんて思わなかった……。わかっていても琉聖さんと別れるのは辛い。


私は寒さも感じずにベンチに座り泣いていた。



琉聖Side


柚葉の顔を一刻も早く見たい俺は空港に到着すると病院へ車を走らせた。助手席に置いたカバンを見る俺の顔はきっと緩んでいるはず。カバンの中に入っている柚葉への土産……喜ぶ顔がみたい。俺はいつになく心を躍らせて車を運転していた。


病室に向かう廊下で看護師たちが慌ただしい。


何かあったのか?


先を行くと、突き当りの柚葉の病室のドアが開いていた。


柚葉!?


病室に飛び込むように入ると、中に玲子と看護師がいた。ベッドを見ると、柚葉がいない。


「柚葉はどこに!?」


俺の声に気づいた玲子が振り返る。


「琉聖さん、柚葉さんが戻って来ないのよ 今、探させているわ」


俺を見てホッと息を吐いたように見えた玲子はいつもの落ち着きが見られない。


「戻っていない?どれくらい経っている?」


「夕方に弟さんが面会に来られて、その後に初めて見る若い女性の面会があったと看護師が言っているの」


テーブルの上に花束が置かれている。


「夕方?もう七時を過ぎているじゃないか!」


俺は声を荒げていた。病室を出て探しに出よう廊下に出た矢先、目線の先に看護師に肩を抱きかかえられるようにして歩く柚葉が目に入った。

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