契約妻ですが、とろとろに愛されてます
「柚葉!」


ぼんやりとした表情の柚葉。目は赤くて泣いたように腫れていた。


「ゆず?」


呼んでも俺の顔を見ようとしない。どうしたんだ?


俺の後ろにいた玲子が柚葉に近づく。


「とにかくベッドへ」


玲子が看護師に言うと、柚葉は病室へ連れて行かれる。


柚葉?いったいどうしたんだ?


無表情に近い人形のような柚葉を看護師がベッドに入らせている。


「熱を測って それから血圧も」


玲子がテキパキと指示を出す。


ベッドに入った柚葉は目を閉じている。玲子が診察していても目蓋を開けない。


「身体は冷え切っていたけど熱はないようね 良かったわ」


玲子が聴診器を耳から外して、後ろで様子を見ていた俺に言う。


「柚葉さん、寒気を感じる?」


玲子が柚葉に聞くと、微かに首を横に振った。


「夕食をしっかり食べなさいね?」


玲子は俺に頷くと看護師と共に出て行った。なぜ病室を抜け出したのか、俺に聞き出せと言っているようだった。


「柚葉、どこへ行っていたんだ?」


ドアが閉まると、俺はベッドの端に腰をかけ口を開いた。


「お願い……今は何も話したくない……出て行って下さい……」


目を閉じながらそれだけ言うと、身体の向きを変えて俺とは反対の方の窓側を向いた。

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