契約妻ですが、とろとろに愛されてます
「菜々美が来たんだな?」


「明日、病室を移ります 病室にかかったお金は時間をかけても返しますから……」


爆弾発言を次から次へと俺に落としていく。


「これを信じたのか?」


柚葉のシーツの上に置いた指がピクリと動いた。


「もう出て行って下さい……」


「柚葉!聞くんだ」


俺は声を荒げていた。誤解を解かなければ。


「いやっ!聞きたくない!」


俺の声を拒絶し柚葉は両手で耳を塞いだ。その姿は小さな子供のように見えた。


今は何を言っても無駄だろう。今日の所は早く休ませなければ。


俺は両耳を塞いだ柚葉の手を掴むと外すと口を開いた。


「病室を変える必要はない 金も返す必要もない」


俺は俯く柚葉を置いて病室を出た。


病院を出て駐車場に停めておいた車へと向かう。その間にも柚葉を混乱させた菜々美に怒りを感じていた。


車のドアを乱暴に閉めると、物が落ちて来そうなほどの振動。苛立ちを車にぶつけていた。


菜々美があの写真を持ってきたのか……突然、ニューヨークのホテルのロビーで俺を待っていた菜々美。あの写真はもうお前を愛することはないと告げた時のものだろう。腹いせに柚葉に会い、何を言ったんだ?


くそっ!


赤信号で止まり、握っていたハンドルを離すと両手をハンドルに打ち付ける。


明日、柚葉と話をしよう。俺が愛していることをわからせなければ。

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