契約妻ですが、とろとろに愛されてます
琉聖Side


その夜、俺は菜々美をいきつけのバーに呼び出した。カウンターに座っている俺の所へ菜々美がにこやかに近づいてきた。


「琉聖!」


嬉しそうな菜々美を見て琥珀色の液体を流し込む。


「嬉しいわ 誘ってくれるなんて ニューヨークではごちそうさま」


興味がないことをわからせる為に、一杯奢っただけだ。俺は心の中で笑う。


菜々美は俺の隣の席に甘い香水を漂わせながら座った。


「マルガリータをちょうだい」


カウンターの中にいるバーテンダーに注文する。


「単刀直入に言おう」


「単刀直入って?どうしたの?」


綺麗に化粧を施された菜々美の眉毛の片方が上がる。


「君との恋愛はありえない そう言っただろ? 今後、柚葉に近づかないで貰いたい」


「何を言ってるの?」


「柚葉を愛している」


「彼女は健康じゃないわ おじ様やおば様は彼女の病名を知らないのではなくて?」


「なぜ柚葉の病気を知っている!?」


「ふふっ、知ろうと思えばいくらだって知ることは出来るわ 血液の病気だなんて治るのかしら?もう二ヶ月近く入院しているのでしょう?真宮の家には相応しくないわ それに家柄だって私ほど真宮家に相応しい女性はいないわ」


「柚葉は健康になる それに真宮家に相応しい女だと?自分がそう思っているとは可笑しくて腹を抱えたくなるよ 家柄も関係ない」


「本当に彼女は治るの?貴方が不幸になるのを見ていられないの」


すがりつくように俺の手の甲に自分の手を重ねあわせる。


「柚葉は健康になる」


菜々美の手から自分の手を引き抜く。


「琉聖!私は貴方を愛しているの」


潤んだ瞳で琉聖を見つめる菜々美。


「それなのに君は俺から離れていった 大富豪のアメリカ人を選んだだろう?」


「貴方がなかなか結婚してくれなかったからよ 結婚の話になるといつも貴方は避けていた」


菜々美は自分の都合のいいように言っている。あの時の俺は菜々美を愛していた。学生からの付き合いだったがすぐに結婚するのは嫌だと言ったのは菜々美だ。仕事をしていろいろな所へ遊びにいってから結婚したいと。キャビンアテンダントになった菜々美は言葉通り、羽をのばしアメリカ人の大富豪を見つけた。


「お前がすぐに結婚は嫌だと言ったんだ」


「私は貴方を愛していた。それなのに貴方は仕事ばかりで 私をマイクに走らせたのは貴方のせいよ」


勝気な目を向けられる。その瞳は俺を愛しているようには見えない。


またニューヨークで話したことを繰り返している。いい加減うんざりだ。


「お願い愛してるの 柚葉さんと別れて私と結婚して」


「無理だ 俺はお前を愛していない 愛しているのは柚葉だけだ」


俺はスツールから乱暴に立ち上がった。

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