契約妻ですが、とろとろに愛されてます
「どう……して……?」


酷いことを言ったせいで……もう会えないと思ったのに……。


「もう心配させないでくれ 具合はどうだ?」


その声は優しさに満ち溢れて聞こえる。琉聖さんは点滴をしていない方の私の手を握っていた。


「琉聖……さん……どうしてここに……?」


「ゆず、俺達の契約は――……」


病室のドアがノックされて琉聖さんは言葉を止めた。入って来たのは玲子先生と看護師さん。


「琉聖さん、柚葉さんが目覚めたら教えてって言ったでしょう?」


人が来ても琉聖さんの私を握る手は離されていない。そこを玲子先生が見て小さく微笑む。


「玲子先生……ごめんなさい……」


ごめんなさいの意味は目覚めてすぐに知らせなかったのではなくて、勝手に外に出て体調を崩して迷惑をかけてしまったこと。


「琉聖さん、柚葉さんと話があるの 少しの間、廊下に出てもらえる?」


玲子先生が琉聖さんに言い、一緒に入って来た看護師さんに頷く。


ふたりが出て行くと、真剣な表情も玲子先生は口を開いた。


「柚葉さん、何があったかわからないけど……貴方の行動は幼稚だったわね 私達、医者は病人がいれば助けるのが義務よ 患者さんが苦しんでいても所詮他人 心配し手は尽くすけれど、その気持ちは家族や愛する人には負けるわ 貴方を愛する人たちは貴方が苦しんでいたり痛がっていたら身を切られるような想いをしているの お姉様達も真夜中に飛んでいらしたし、琉聖さんは寝ずにずっとつきっきり 今回の貴方の行動は自分の状態を後退させるばかりか、みんなを心配させたのよ?」


玲子先生の言葉は身に染み入るほど心に響き、自分のバカさ加減に落ち込んでしまう。


「本当に……バカな行動をしました……」


「もうみんなを心配させてはだめよ?早く元気にならないとね?」


優しく肩を撫でられて、私は真摯に頷く。


「はい」


玲子先生は一通り診察し、午後に検査があると伝えて出て行った。代わりにお姉ちゃんと慎が入ってきた。


琉聖さんは……?


「ゆず、大丈夫?」


お姉ちゃんの後方を見ていた私はお姉ちゃんの心配そうな声に我に返った。


「心配かけてごめんなさい 外の空気吸いに屋上に出て騒がせちゃった」


「そうだよ、すげぇ 心配したんだぜ?ゆず姉」


「ごめんね 慎……琉聖さんは?廊下にいた?」


来てくれたお姉ちゃん達には申し訳ないけれど、琉聖さんが気になっていた。


「さっきまでいたけれど、一度マンションに戻るって言っていたわ 真宮さん、疲れていたみたいだけど大丈夫かしら……」


マンションに戻ったんだ……琉聖さんに早く謝りたい……。



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