契約妻ですが、とろとろに愛されてます
「琉聖さん、ちょっといいですか?」


修二たちが帰り、柚葉と美紀さんがキッチンで片付けていると、慎君が俺に話しかけ立ち上がった。慎君は視線をキッチンに泳がせる。どうやらここでは話せないようだ。


「あぁ」


俺は立ち上がると、二階の慎君の部屋に行った。彼の部屋は六畳ほどの広さで、窓際にベッドと入り口に勉強机があった。意外と読書家らしく、勉強机の並びにはその部屋には不釣り合いなほどの本棚があった。


「散らかってますけど……」


そう言って俺に机のイスを勧める。


「ずっとお礼を言わなければと思っていたんです」


慎君が先ほどの軽口とは打って変わり、真剣な顔つきになり話し始めた。


「お礼?」


何の事だかわからない俺は聞き返す。


「はい 1500万貸していただいて助かりました」


そう言うと、慎君は床に座りそこに付くくらいに頭を下げた。


1500万……柚葉が欲しいと言ったあの金のことか?


「一生の不覚でした。友達の親の車をぶつけてしまうなんて 少しずつですが借りた金は返しますので」


あぁ……それでか……やはり柚葉は金目当てで無く、弟の為に工面しようとし、俺と契約をしたのか……。


******


マンションへ帰る車の助手席に落ち着いた柚葉が小さくため息を吐いたのを俺は聞き逃さなかった。


「疲れただろう?」


運転中の俺だが、手を伸ばして柚葉の頭に触れる。


「少しだけ……」


俺を見て微笑む柚葉。慎君の話を聞いた俺はますます柚葉が愛しくてならない。


「眠っているといい」


「はい」


柚葉は返事をして目を閉じた。


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