契約妻ですが、とろとろに愛されてます
車に乗り込むと病院へと走らせる琉聖さんの顔には急ぐ様子もなく余裕の表情が浮かんでいる。


私に付き添う分、会社に行けば昼食を食べられないほど忙殺されるに違いない。そう思うと申し訳なくなる。入院中、ずっと付き添ってくれていたけれど、今はあの頃より忙しいみたい。


「ゆず?気にしているのか?何も気にする必要はないよ むしろこういう時間も良いと思っている」


琉聖さんは私が途中で立ちくらみしたり、気分が悪くなった時のことを考えて一緒に行ってくれるんだと思う。気にしないようにと言ってくれているのだけど、私の存在が琉聖さんにとって良いのかわからなくなってくる。


「ゆず?」


丁度、信号が赤になり琉聖さんは助手席の私の顔を見た。


「気分でも悪いのか?」


「ううん」


心配そうな琉聖さんに微笑んだ。考え込んでしまったらしい。


******


込んでいる大学病院の待合ロビーでは琉聖さんは不似合いに見える。いかにも健康そうな体躯に高級なスーツ姿。私が側に居ないと、なぜこの人はいるの?と不思議に思われても無理はないくらいに健康そう。


看護師さんに呼ばれると、琉聖さんも診察室へ入った。


「あら、琉聖さんも一緒だったのね」


私の後ろにいる琉聖さんを見てもさほど驚かなかった玲子先生。


「――立ちくらみが時々あるのね?」


以前のカルテを見ながら玲子先生に問診される。


「採血しましょう」


私のような病気は血液検査をすると、その後血が止まるまで病院で休ませてくれる。


「血が止まるまで隣の部屋で大人しく横になっていてね」


玲子先生が隣の部屋を指さす。


「琉聖さん、まだ時間がかかるからお仕事に行ってください」


「柚葉さん、彼は心配で仕方がないのよ」


玲子先生がフフッと笑う。


「タクシーで帰るから大丈夫です 携帯もあるし」


入院してしまってからほとんど使っていないベビーピンクの携帯がバッグの中に入っている。


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