契約妻ですが、とろとろに愛されてます

無断外泊

「柚葉、そっちが洗面所だ」


えっ?ゆ、柚葉……?


親しげに名前を呼ばれて、心臓がトクンと鳴った。


「は、はい」


ギクシャクとした動きでベッドから降り洗面所に向かう。


わっ……すごい……洗面所と浴室だけで我が家のリビングがすっぽり入ってしまいそう。バスタブの他にシャワールームとサウナらしき設備がある。さすが真宮コーポレーションの副社長の住まいだわ……。


丁寧に顔を洗ってふかふかのタオルを使わせてもらう。


鏡に映る自分の姿を見て、思わずため息が漏れてしまう。


せっかくのワンピースが皺になっちゃった……。
 

洗面所を出ると、寝室に真宮さんのお母様はいなくなっていた。


真宮さんの姿も見えない。


寝室をぐるっと見渡すと、思わずため息が漏れる。


この部屋も広くざっと二〇畳はありそうだ。ベッドもクイーンサイズ?キングサイズ?かなり大きい。


なんて我が家と世界が違うのだろう……。


我が家を思い出して、姉を思い出した。


あ!お姉ちゃん 無断外泊しちゃって心配してる!


壁にかけられた時計を見ると、針は八時を指していた。


こんな時に携帯電話を持っていないのは不便だ。特に必要性を感じていなくて持っていなかったけれど、今は持っていたらすぐかけるのに……と後悔する。


早く帰らなくちゃ!


ドアに足を向けた時、向こう側から開いて真宮さんが入ってきた。


「真宮さん!私、帰ります!お邪魔しました!」


「その姿で帰るのか?」


しわくちゃなワンピースを指さして言う。


「え……?」


昨日私が着ていたブラウスとハーフパンツがクリーニングの包装に包まれて手渡された。


「何から何まですみません」


服を抱えて頭を下げると、もう一度洗面所へ行った。


素早く着替えてワンピースを丁寧にたたむと寝室に戻る。


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