契約妻ですが、とろとろに愛されてます
「ゆず!」


顔を隠されては話にならない。


「もう大丈夫……だから、早く行って……」


布団の中から聞こえる声はくぐもっていた。


「それでは話が出来ない 顔を見せてくれないか?」


布団が内側から乱暴に跳ね、柚葉が顔を出した。


「ごめんなさい、こんな所見られたくなかったのっ 早く仕事に行ってください」


点滴の針が入っているのもかまわずに、乱暴に起き上がり俺の身体を押す手を掴む。その手は冷たく震えていた。


「迷惑かけたくなかったのに……ごめんなさい」


俺は柚葉の身体を静かに抱きしめた。


「すまない……君を悲しませてばかりいる」


「そう思われたくないから、知られたくなかった……」


俺の胸に抱かれた柚葉が聞こえないくらい小さな声で呟いた。


「ゆず……」


「帰って……お願い……」


顔を上げた柚葉の瞳は潤んでいた。まだ顔色も戻っておらず、唇の血色が悪い。


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