契約妻ですが、とろとろに愛されてます
ランチの場所は意外なことに、ビルの六階にある社員レストランだった。


ビルのワンフロア―に構えている社員レストランはスーツ姿の男女でかなり混んでいた。トレーに食べたい料理を置いて行き、最後にお金を払うシステム。品数も多く、高級レストランに劣らないほど丁寧に盛り付けされているお料理。


社員レストランがあるここの社員さん達が羨ましくなった。真宮の子会社でも、各地の支店や営業所を含めて従業員は三〇〇人ほど。私が勤務していた本社は一〇〇人に満たなくて、社員レストランはなかった。


オムライスを前に、琉聖さんが飲み物を持ってくるのを待っていると周りから視線を感じた。それ以前に、ここに入った瞬間から見られている気がする。


その時、修二さんがトレーを持って斜め前の席に座った。


「修二さん」


知っている顔を見てホッと安堵する。


「見世物になっている気がしているでしょ?」


「えっ……ええ……そうですね……」


「いつもはもっと人が少ないけど、今日は社内で副社長が妻を連れて来たと情報が流れたせいなんだ」


「修二、お前のせいだろ?」


琉聖さんが戻って来て優雅な所作で席に座る。


「神に誓って俺じゃないよ でも、執務室で食べられるものの、ここに連れてくるのは妻自慢したかったんだろ?」


えっ……?


「もちろんだ」


否定するだろうと思った私はあっけにとられた。そんな私の顔を見て琉聖さんが不敵な笑みを浮かべる。


「料理が冷める 食べよう」


そう言って、私のトレーにお茶のカップを置いてくれた。


ランチが済むと、桜木さんに送られてマンションへ戻って来た。


玄関を入ると真っ直ぐリビングルームのソファに座る。琉聖さんと別れ、車に乗ると疲れを感じた。


疲れたけれど、琉聖さんの意外な一面を見れた気がして楽しくうれしかった。


……少しだけ眠ろう……。


眠気に逆らえずに私はソファの上で身体を丸めて目を閉じた。


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