契約妻ですが、とろとろに愛されてます
私は目の前が真っ暗になった。


自分の身体が自分の物でない感覚。眩暈ではない。病気が酷くなっているのは意識の底でわかっていた……けれど、それを無理に押し込めていた……確実に私の病気は悪化している……。


この幸せを守りたかった……琉聖さんと暮らす日々を楽しみたかった……。


明日、病院に行くと琉聖さんに言おう。


またあの長く、辛く、退屈な日々を過ごさなければならないのだと思うと気が滅入る。


私は緩慢な動作で、パウダールームのドアを開けると琉聖さんが壁から身体を起こすのが見えた。壁に背を預けて待っていてくれたようだ。


「ゆず?大丈夫か?」


私の表情を見て琉聖さんは眉根を寄せて聞いてきた。


私は気持ちが顔に出てしまう方だから、琉聖さんに気持ちを読まれやすい。


「大丈夫だよ?お義父様と貴子さんにお礼を伝えるんでしょう?」


無理やり明るい表情を作って琉聖さんの腕に腕を絡ませる。


「あ?あぁ……行こうか」


私達はお義父様と貴子さんにお礼を伝えに賑やかな部屋に戻った。


******


再び、桜木さんの待つ車に乗り込むとマンションに向かった。


「ずっと待ってくれていたんですか……?」


桜木さんが待っていたので、驚いて聞いた。


「いいえ、私の実家がこの近くなので寄らせていただきましたよ 静かなイブの夜を過ごさせていただきました」


そう聞いてホッとした。琉聖さんの個人秘書も兼ねる秘書とはいえ、自分達だけクリスマスを楽しんでしまうのは申し訳ない。


桜木さんはバックミラー越しに微笑むと車を発進させた。


マンションを通る道はクリスマスのイルミネーションでキラキラと輝き綺麗だった。


「琉聖さん、見てっ!すごくキレイ!」


琉聖さんは身を私の方に身を乗り出して窓の外を見た。


車窓からイルミネーションを見る私は子供のようにはしゃいでいた。ふたりで見るイルミネーションは特別なものに感じる。


「ねっ?キレイでしょう?」


琉聖さんは暖かい笑みを浮かべると、ちゅっとかすめるようなキスを唇に落とす。


「停まりましょうか?」


私の声が聞こえた桜木さんが聞いてくれる。


「えっ?ううん……いいです」


車から見るだけで十分キレイだから。


「いいのか?」


琉聖さんも聞いてくるけれど、首を横に振った。

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