契約妻ですが、とろとろに愛されてます
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佳代子さんのお弁当は美味しかったけれど、胃が小さくなったせいで思ったより食べられなかった。それでもいつもよりはたくさん食べられたはず。


「ご馳走様でした 忙しいのにありがとう」


「このくらいなんでもないよ」


琉聖さんも食べ終わり、重箱を片付けるとベッドの端に腰をかける。


「もう四月になっちゃった……新入社員は入って来た?」


普通の会話がしたくて聞いていた。


「ああ、一昨日入社式が終わった」


「そうだったんだ……」


私が勤めていた会社の入社式はそれほど人数がいなかったから、各地の支店から集められ会議室でやったんだっけ。


真宮の入社式はビルの一階にある大ホールで行われたんだろうな。


「ゆず?」


琉聖さんの長い指が私の手に触れる。


「えっ?」


「どうした?食べすぎて気分が悪くなった?」


私の表情から不思議な瞳の色で何かを読み取ろうと覗き込まれる。


「ううん、入社式のことを考えていたの 懐かしいなって 早く退院したい」


「ああ、良くなっているそうだからあと少し頑張れば退院だ」


「うん」


「うん」としか返事をしないのは琉聖さんの言葉が嘘だと知っているから。

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