契約妻ですが、とろとろに愛されてます
琉聖Side


玲子から柚葉の食欲が落ちていると聞いた。長く一緒に居られなくなり、食事にまで気が回らなくなっていた。


俺は玲子と相談し、塩分やカロリーなどを事細かに書いたメモを佳代子さんに渡し弁当を作ってもらった。


病院食は美味しくないのはわかる。いつ配膳したのかわからない時間が経ったであろう飯では美味く食べれるわけがない。たまには美味しい物を食べさせてやりたかった。


昼前に届けられた弁当を持って、俺は病院へ向かった。


病室に入ると、柚葉は窓側を向いていた。


眠っているのかわからない。ドアが開く音がすれば必ず見るはずなのだが……。


声をかけると、柚葉はすぐに振り向き驚いたように目が大きくなった。


佳代子さんの弁当を見せると柚葉はきらきらと目を輝かせた。


喜んでくれているのを見て俺の心は安堵し温かくなった。


そしてその顔を見ていたら甘やかせたくなった。食べさせてあげたくなった。俺が箸を運べば自分で食べる時より量が食べられる作戦でもある。


帰る時、「今日はもう来なくていいよ」と寂しいことを柚葉は言った。


適当に相槌を打ち、病室を後にした。


柚葉の言葉通りにするつもりはない。時間が出来れば病室に飛んできたいほどだった。


******


夜遅くに俺が病室に現れると柚葉が顔を顰めた。


「琉聖さん、来なくていいって言ったのに……」


「おやすみのキスをしようと思ってね まだ起きていたのか……」


「うん……」


ベッドサイドの電気だけが点けられた部屋にひとりでいる柚葉が可哀想になった。


柚葉の色のない唇にキスを落とす。その唇はひんやりと冷たい。


「おやすみ」


そう言うと、柚葉は微笑んだ。以前のように幸せそうな微笑ではない。


どこか遠くに柚葉を感じるのはなぜだろう。


適合者が見つからないままどんどん月日が経って行く。


柚葉の前では心配をかける言葉や表情をしてはいけないが、内心では焦りを感じていた。


柚葉の身体は夏まで持たないかもしれないと昨日玲子に言われたせいだ。


まだ病室から出ようとしない俺に柚葉はもう一度目を開けた。


「琉聖さん?」


「君が眠りに就くまでいるよ」


ベッド横のイスに座り柚葉の手を握った。


「ありがとう……おやすみなさい」


柚葉は握った手を握り返して目を閉じた。

< 274 / 307 >

この作品をシェア

pagetop