契約妻ですが、とろとろに愛されてます
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春の陽気で暖かくなって来た外を眺めていると、麻奈が遊びに来てくれた。


「ゆず、遊びに来たよ」


「いらっしゃい 麻奈」


いつもの麻奈と様子が違うように見える。私の顔色を窺うような、気づかうような。


琉聖さんから修二さんを通して、麻奈は病状を聞いているのかもしれない。


すぐ顔に出る麻奈だから、言わないで欲しかったな。ここに来るにも勇気が必要だっただろうに。


私は近づいてくる麻奈の表情をじっと見ていた。


麻奈は私と目と目が合うもののすぐに逸らしてしまった。


「どうしたの?麻奈、変な顔しているよ?」


「そ、そうかな~?柚葉、お花持って来たの キレイでしょう?活けるね?花瓶は他にもある?」


病室には貴子さんや琉聖さんが持ってきてくれた花が飾られている。


麻奈は早口で言うとクルッと背を向けた。


「うん、そこの洗面台の下を開けてみて?」


私に言われた通りに洗面台の前でしゃがむと、下の観音開きの戸を開けた。


「あ~ あったよ!あった!今活けるからね?」


「麻奈……」


無理に明るく振る舞おうとしている麻奈が痛々しくてならない。


「え……?な、なに?今活けちゃうから待っていてね?」


麻奈は振り向いてくれない。でもその声は涙声だということがわかる。


「麻奈……ごめんね……悲しまないで……」


活けようとしていたお花が麻奈の手から離れて床に落ちた。

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