契約妻ですが、とろとろに愛されてます
「っ! ゆず、……全部知ってるの?」


麻奈は振り返り、私を悲痛な顔で見る。


「うん、数か月のうちに骨髄移植をしなければ命がないって……お願いだから、悲しまないで……」


「ゆず!悲しまないなんて出来るわけないじゃん!!!」


麻奈は涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま私の所まで来た。


「絶対に適合者が見つかるまで頑張るんだよ?頑張らないと許さないんだから!何が何でも適合者が見つかるまで辛くても耐えなきゃだめだよ?」


ポロポロと涙を流す麻奈に頷くしかなかった。


「麻奈……ありがと……もう泣かないで、お化粧が落ちちゃったよ」


「本当に約束してね?絶対だよ?」


涙をしゃくりあげながら麻奈は約束させようとした。


「うん」


私の返事に涙を拭きながら頷き、麻奈はやりかけの花を活けに洗面台へ戻った。


「後で修二に会うの お化粧直さなくちゃ……」


そう言いながら窓際のスペースに花瓶を置く。


「マスカラが凄いことになってるよ?キレイに直さないと」


「ええっ!?ウォタープルーフなのにっ」


麻奈はソファに置いたバッグを開けてお化粧ポーチを出した。


「柚葉、ちょっと待っててね すぐに直しちゃうから」


麻奈はお泊り用のクレンジングシートで顔を拭き始めてお化粧を直し始めた。


そんな姿を見て本来なら羨ましく思うはず……なのに、心が冷めきってしまったように何とも思わなかった。



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