契約妻ですが、とろとろに愛されてます
十五分後、俺達は柚葉の病室にいた。


「柚葉さん、今朝、意識がハッキリしなくなったの……」


病室には玲子や看護師がいた。


「ゆず……」


酸素吸入器をつけ、以前と同じように華奢な身体にたくさんの線やチューブがつけられている。


柚葉は普通に眠っているようだった。今にも目を開けて「おはよう」と言ってくれそうなほどなのに……。


俺は力なく柚葉のベッドの横のイスに座った。


「ゆず、目を覚ましてくれ……」


柚葉の手をそっと握る。


もう一度、微笑んで欲しい……もう一度話がしたい。


俺の名前を呼んで欲しい……。


もうそれは無理なのか?




その後、美紀さんや慎君が現れても、まだ柚葉の意識が戻っていなかった。


美紀さんは慎君の肩で号泣している。


「ゆず……」


美紀さんは意識のない柚葉の顔を見ては涙が止まらず目にハンカチを当てる。


「ゆず姉……頑張れよ!みんなが悲しむだろっ!なんか言ってくれよ!相談にのって欲しいことがあるんだよ!」


慎君は柚葉の状態を見てショックを受け身体を揺さぶった。


「慎!やめて!柚葉が痛がるわ」


泣きじゃくりながら美紀さんは慎君の大きな体を押さえた。


俺は柚葉の顔だけを見つめていた。


早く目を覚ましてくれ……まだ負けては駄目だ……ゆず……。


柚葉の手を握っていた俺は柚葉の指がピクッと動いたのを感じた。


「ゆず!ゆず! 目を覚ますんだ!」


意識が戻れば再び苦痛を伴うことはわかっている。


それでも、目を開けて欲しい。


頑張って欲しい。


まだ柚葉は頑張れる。

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