契約妻ですが、とろとろに愛されてます
真っ暗な意識の中で誰かが叫ぶ声が聞こえた。


あれは……だ……れ……?


私は何をしていたんだろう……。


だんだんと耳に機械音と誰かがすすり泣く声が聞こえてきた。


そうだ……私はまた具合が悪くなって……。


りゅ……せ……。


昨晩は琉聖さんは姿を見せなかった。


会わずに死んでしまうのかと死を覚悟したのに……あぁ……意識がハッキリしてきた……。


だけど、目が重くて開かない……。


琉聖さんの顔を見てからでないと、逝けない……。


「ゆず!」


その時切羽詰まったような琉聖さんの声が聞こえてきた。


「りゅ……」


まだ死ねない……。


辛いけれど死ねない。


お別れの挨拶をしていない……。


私は重くて仕方がない瞼を開けた。


目を開けると、憔悴しきった顔をした琉聖さんがいた。


「わ……た……し……」


「良かった……」


琉聖さんは私の手を口元に近づけてキスを落とした。


「ゆず姉!心配させんなよ!」


慎が怒ったように言うけれど、顔には泣いた跡が見える。


「……し……ん……ごめ……」


私は皆を驚かせ、悲しませてしまったことを知った。


もう一度、こんな目に合わせるのなら死んでいた方が良かったのかもしれない。


< 294 / 307 >

この作品をシェア

pagetop