契約妻ですが、とろとろに愛されてます
お昼近くなると食事が近くの和食レストランから運ばれてきた。きれいに配置されたお弁当は美味しそうで、食欲が出て来た気がした。


食べ終わると私は琉聖さんを待たずに帰ることにした。迷惑をかけてしまったのに、出張から戻ってから自宅に送ってもらうのは申し訳ない。


鍵がないから、自宅に誰かいるか電話をしてみると慎がいた。これからアルバイトで出てしまうから、いつもの場所にカギを隠しておくと言った。


電車を乗り継ぎ自宅に帰ると、頭がふらふらして胸が重苦しくなった。ふらふらとキッチンのイスにドサッと座る。


お水を飲んでホッと一息吐く。


夏風邪は長引くって言うから気を付けなきゃ……。そうだ!琉聖さんにメールをしておこう……。


携帯電話をバッグから出してメールを打ち始めた。慣れない携帯でメールを打つのは初めてだから一行打つのにも時間がかかってしまう。


【琉聖さん

お世話になりました。
先ほど自宅に着いたので
琉聖さんは気にせずにお仕事して下さい。
                                 柚葉】


「これでいいかな?」


呟くと送信を押した。


携帯電話を片手に本当に送れたかな?無事に着いた?


初めてメールを送った私は不安だった。


そんなことを思っていると、手の中の携帯電話が鳴った。


「きゃっ!」


突然鳴った携帯電話に驚いてテーブルの上に落としそうになってしまう。


急いで見ると、画面には琉聖さんの名前。


急いで通話ボタンに指が動く。


「琉聖さん……」


『柚葉、どうして帰った?』


怒りを含んだ琉聖さんの声に驚く。


「送っていただかなくても、ひとりで帰れます」


琉聖さんの怒りを感じて、小さな声になってしまう。


『まったく……何かあったらどうする?』


何かって何もあるはずないのに……子ども扱いされている気がする……。


「何もあるわけないです」


『いや、現にあっただろう?』


「あ……」


横瀬課長を思い出してしまい、言葉に詰まる。


『すまない 思い出させてしまった……二・三日は家でゆっくりしているんだぞ?』


琉聖さん、二・三日って……意外と過保護のような気がする。


『聞いているのか?』


「は、はいっ」


また連絡すると言って電話は切れた。


切れた携帯電話を見つめて、私はため息を吐いた。


琉聖さん、どういうつもりなのかな……?契約の婚約者なんだから放っておけばいいのに……そんなに優しいと本気になっちゃうよ……。


その日は彼のことを考えては何度もため息を吐いたのだった。
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