契約妻ですが、とろとろに愛されてます
「……あの支店って……冬は濡れたタオルも凍るっていうくらいの極寒の土地だよね?奥さんが可哀想……」


「まあね、単身赴任だって言うし、別れるかもしれないね」


麻奈は乱暴にスプーンで最後のオムライスをすくい頬張った。


横瀬課長は自業自得だと思っているけれど、奥さんや子供には罪はない。自分のせいで家庭を壊してしまったらと思うとやり切れない思いになる。


「そんな顔しないのっ!ゆずは被害者なんだから。未遂で済んだから左遷程度で済んだのよ?たとえ会社を辞めたり、離婚したとしてもゆずには関係ないの ほんと、真宮さんが来てくれて良かったよ」


「琉聖さんが来てくれなかったら……と思うと今でも震えるの……」


「しかし……よく来てくれたね?」


「うん 残業のメッセージを聞いて、送ってくれるつもりで来たんだって」


「良かった。それが無かったら大変なことになってたよ 家に電話したら真宮さんの所に泊まったって聞いたからびっくりしたわ まさか、ゆず……もうそんな関係になっちゃったとか?」


「えっ……」


麻奈の言葉にアイスティーに手が伸びた私の手が一瞬止まる。


「家まで送ってくれたんだけど、カギが無くて、具合が悪いのを見かねて琉聖さんが泊まるように言ってくれただけだよ」


契約で本気になってはだめだよ?と言われているから麻奈に本当のことは言えなかった。


「なんか変だな~ 婚約者だと言っても契約だし、残業をしているゆずの為に迎えに行くって言うのもなんだか変だし……もう寝たと思うのが妥当かなと 女なんてプレゼントをあげて、エッチすればいいと思っている男でしょ?手を出すのも早そうだし」


「ま、麻奈っ!」


麻奈の言葉に、顔が赤くなっているに違いない。手をパタパタと仰ぎながら、氷の入った水を飲む。


「琉聖さんは優しいよ 寝室に仕事を持ち込んで看病してくれたし……」


「ふ~ん 修二から聞いている話とかなり違うね」


「え?」


「付き合った女に冷たいって言ってたよ 絶対に泊まらないし泊まらせないって」


「仕方なくだよ。ほら、一応婚約者だし?」


「それにしては面倒見過ぎのような気もするな」


「そうかな?」


「もしかしたらゆずを好きなのかも」


琉聖さんが私を好き?


「そんなわけないよ 私達はお金だけの関係だもん」


私の言葉に納得できないような顔をしていた麻奈が「あっ!」と声を上げた。


私もその声であと一〇分程でお昼休みが終わってしまうことに気づいた。


私達は急いで会計を済ませると、会社に向かった。


途中、ポケットに入れていた携帯電話が振動した。まだ番号を知っている人はいないので琉聖さんのはず。

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