契約妻ですが、とろとろに愛されてます
「こんな時間だ、腹が空いているだろう?何か食べよう 取って来るからここで待っていろ」


一緒に取りに行った方がいいのか、戸惑っているうちに琉聖さんは行ってしまった。


琉聖さんがいなくなると周りの人たちが興味津々に私を見ているのを感じた。頼りの琉聖さんが離れると言いようもない心細さに襲われる。


好奇心の視線から隠れるように俯くと小さなため息が漏れる。


琉聖さんのような人の婚約者が私で、ここにいる人たちは納得するのだろうか……。




数分後、美味しそうな料理がのった皿が私の目の前に差し出された。


「美味しそう……」


八時を回っており、お昼から何も口にしていない私のお腹は鳴りそうだった。琉聖さんに微笑むと渡されたフォークを使って口に運ぶ。


琉聖さんも食べようとした時、男性が近づいてきた。親しげな笑みを浮かべた恰幅の良い男性だ。白髪まじりなので、かなり年上のよう。


食事を中断し、私も静かに琉聖さんの側で話を聞いていた。


たくさんの人が琉聖さんに挨拶をしにくる。もう何十人と私は婚約者として紹介された。どの人も反応は似ている。ただのガールフレンドだと考えていたようで、婚約者だと知ると驚きながらも祝福の言葉を述べる。だけど、本当に祝福してくれているのかいささか疑問だ。ある男性など娘の婿にと思っていたのに残念だ。など失礼な言葉を言った。その男性は私でも知っている大臣だった。別の中年の女性は私がどこの令嬢なのか知りたがった。


パーティーには外国人も多く、琉聖さんは英語やイタリア語を流暢に使い、日本語になれば話が高度すぎてまったく付いていけない会話をしている。


すごい人なんだな……と感心してしまう。彼のことを何も知らないのだと今更ながら知った。


時間が経つにつれて身体が重くなり疲れてきた。慣れない高いヒールを履いた足も痛い。緊張からか、とうとう頭痛もしてきた。


「琉聖さん、レストルームに行ってきますね」


「場所はわかるか?」


「廊下を出ればわかると思います」


私は琉聖さんから離れ、出入口に向かった。



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