契約妻ですが、とろとろに愛されてます
「柚葉ちゃん!」


レストルームから戻って来ると、シルバーのキラキラ光るタイトなロングドレスを着た貴子さんがにこやかに近づいてきた。その姿はやはり若々しくて美しい。琉聖さんと並ぶと姉弟にしか見えないくらいなのだ。


「柚葉ちゃんったら、なんて綺麗なの!」


私を頭からつま先まで眺めると、いきなり貴子さんに抱きつかれた。


「琉聖はどこなの?こんなに綺麗な柚葉ちゃんひとりにして」


「レストルームから戻ったばかりで――」


「ここですよ」


横から琉聖さんが現れて私の腰に腕が回される。本当に恋人同士のようだ。


「あら、相変わらずの男前ね」


「貴方も素敵ですよ」


琉聖さんはすました顔でにこりともせずに言う。


「そんなお世辞は結構よ それより婚約おめでとう とっても嬉しいわ 皆さんに柚葉ちゃんを褒められてとてもいい気分よ」


貴子さんは私に向き直るとにっこり笑う。


「ありがとうございます ご挨拶にお伺いしなくて申し訳ありません」


琉聖さんのご両親に報告に行かずに婚約を知られてしまったのが後ろめたい。更に偽の婚約者だということも。


「いいのよ 琉聖がやっと本気になった方ですもの」


貴子さんは本当に嬉しそうで、心から祝福してくれているよう。真宮家ほどの家柄なら、どこかの令嬢と結婚を勧めそうなのに……この婚約を貴子さんは心から喜んでいる。


そんな貴子さんを騙し、私の胸は痛んだ。琉聖さんを仰ぎ見ると、信じ込ませることが出来て喜んでいるかのような笑みを浮かべていた。

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