契約妻ですが、とろとろに愛されてます
拒絶されているみたい……。さっきまで演技とはいえ、優しくされて幸せを感じていたのに……。


私はなんとなく気まずくなって、眠ったフリをした。




「柚葉?着いたぞ」


琉聖さんの声が聞こえ、身体が軽く揺さぶられる。


「え……あっ!」


慌てて身体をしゃんとさせ、目を瞬かせると窓から自宅の玄関が見えた。


眠ったフリが本当に眠ってしまった。


「良く寝ていたな」


「え?」


ものの一分ほどしか寝ていない感覚で、何がなんだかわからない。


ぼんやりしていると、唇が乱暴に重ねられた。


「ん……っ……」


琉聖さんの舌に舌が絡め取られ、思うままに口内を堪能される。車の中で、しかも運転手がいる。けれど、そんなのも頭に入らないくらい琉聖さんのキスに夢中になってしまう。


両手を伸ばし琉聖さんの首に回った瞬間、いきなり引き剥がされた。


「っ!……」


自分からキスしてきたのに……突然キスを止められて茫然と琉聖さんを見た。


「早く家に入れ」


「お、おやすみなさい……」


私側のドアが開けられていた。ドレスの裾を手繰り寄せると、車から降り、振り返りもせずに家の中へ入った。






「ゆずなの?」


リビングからお姉ちゃんの声がする。


「う、うん ただいま」


ドレス姿を見られたくないから顔だけ居間の入り口から覗かせる。


「遅かったのね 夕食は?」


「食べてきた」


「何しているの?入ってくればいいのに」


座卓の前に座っているお姉ちゃんが振り返り怪訝そうに言う。


「う、うん……」


「あれ?ゆず姉?」


このまま自分の部屋に行こうか考えていると、後ろから慎の声がした。慎の声にびっくりして振り返る。


「うわっ!すごいじゃん!ゆず姉じゃないみたいだ」


「慎、何言ってんのよ?」


お姉ちゃんは立ち上がり、近づいて来た。

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