契約妻ですが、とろとろに愛されてます

誘拐?

私の頭は混乱していた。


こんなに簡単に連れ去られて良いものなのだろうか……。


さっきこの人を見た時に受けた衝撃……すごく気になる……そのままにして別れるわけには行かないと思った。衝撃の理由が知りたい。


名刺は本物のよう。以前、真宮コーポレーションの副社長は若いと聞いたことがあった。きちんとした身なりの運転手がいるし、社会的地位はきちんとしていそうだから少しは信用できる……?それに私なんかを無理やり連れ去らなくても、このルックスなら女性に不自由しなさそうに見える。


ふと隣を見ると真宮さんは長い足と腕を組み、頭をシートの背もたれに預けて目を閉じていた。


男性にしてはキレイに整った顔立ち、鼻筋が通っていて一流の美容師に手を入れられたような黒髪、閉じた瞳は誰もが見入ってしまう金色を帯びた瞳。


こんなにキレイな男性を見たことがない。


そんなことを考えていると、ワイパーが規則的に動く車が停まった。


私には長い時間に思えたけど、実際は五分も乗っていなかったのだろう。


かなりの降っている雨で外がよく見えない。


車が停まると、真宮さんがシートから身体を起こした。


反応が早いので、寝ていなかったよう。


「降りて」


真宮さんは車から降りると、私が降りるのを待っている。


降りるのを躊躇っていると、彼は腰を屈めて覗き込んだ。


またあの瞳の色に見つめられ胸がトクンと鳴った。


「そんなに不安そうにするな ちょっと手伝って欲しいだけだ」


仕方なく降りる私を見届けた彼は高級セレクトショップに近づいて行く。


今まで入ったことのない高級な外観の店を見て私は足を止めた。


「あ、あのっ!」


呼び止めるけれど、彼は立ち止まらない。


「どうぞ、中へお入りください」


背後から運転していた桜木さんが丁寧な口調で促す。


私がおそるおそる店の中へ入ると、彼はスタッフらしき女性と話をしていた。


すぐに飛んでくるように女性スタッフがにこやかに笑みを浮かべて私を出迎える。


「いらっしゃいませ」


私は出迎えたスタッフに小さく頭を縦に小さく動かすと、不安になって彼に近づいた。


「彩子さん、ワンピースを彼女に見繕ってほしい」


彼の後ろに隠れるようにして立つと、彼の話が聞こえてくる。そして彼は振り返り私の肩を軽く掴み、彩子さんと呼ばれた綺麗な女性の前に立たせる。

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