契約妻ですが、とろとろに愛されてます
一昨日、琉聖さんの様子がおかしかったように思えたけれど、今日はいつもと同じみたい。でも、何の用だったんだろう……。


たっぷり眠ってしまったせいか、電話の後は眠れずにいた。


喉が渇きキッチンで水を飲んでいると玄関のチャイムが鳴った。


誰だろう……?平日のこんな時間、勧誘か宅配便?勧誘だったら出たくないけれど、宅配便だったら出なければ。


「は……い?」


「柚葉?俺だ」


聞こえてきたのは琉聖さんの声。その声に目が大きくなる。思いがけない訪問に驚いてしまう。仕事中のはずなのに。


「琉聖さん……」


私は急いで玄関のカギを開けに行った。


「起こしたか?」


「ううん、丁度水を飲みにキッチンにいた所で」


ビジネスシューズを脱いで上がってきた琉聖さんは私の額に手を伸ばした。


「まだ熱がある」


「……大丈夫です 身体はつらくないし 仕事中じゃないんですか?」


「外出のついでに寄った」


琉聖さんが果物籠をキッチンのテーブルの上に置く。


「たくさんの果物……ありがとうございます」


包装紙は値段が高くて有名な某フルーツ専門店だ。


果物を前にして、なぜ琉聖さんが来たのか気になる。昨日の予感が本当になるの?


昨日偶然にふたりを見かけたのを思い出す。親しげに見えてあの時に思ったことが脳裏をよぎる。


<もうすぐ契約が終わる……>


「――は?柚葉?」


「えっ?は、はいっ」


考え事から琉聖さんの声に我に返る。


「どうした?具合が悪いんじゃないのか?ぼんやりしているぞ?」


「だ、大丈夫です なんでしたっけ?」


「食欲はあるのか?果物、どれか食べるか?」


言われて私は籠の中身を見た。


艶やかで真っ赤なリンゴが美味しそう。


「リンゴをいただきますね」


大きなリンゴを手にすると、流し台に向かう。


「俺がやる」


琉聖さんが私の手からリンゴを奪うように取られる。


包丁を持ったこともなさそうなのに、琉聖さんはみるみるうちに綺麗に皮を剥いていく。


「どうした?ぽかんと馬鹿面だぞ?」


「馬鹿面って!キッチンに立ったこともなさそうなのに綺麗に剥くからっ」


「料理は出来ないが、これくらいは出来るさ 一人暮らしは長いんだ」


ひとつ琉聖さんのことがわかり、私は見えないように笑みを漏らしながら塩水を作った。


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