契約妻ですが、とろとろに愛されてます
出かける支度を済ませると、桜木さんが迎えに来た。


「会社まで送って行く」


「大丈夫です、電車ですぐですから」


私はにっこり微笑んで断る。


「明日からは送迎車を手配しておくからな」


「突然何を言い出すんですかっ?今まで何年も電車に乗っているんだから大丈夫です」


「俺の婚約者だぞ?」


こんな話をしていたら遅刻してしまう。


「もう、その件は保留にしてくださいっ」


そう言うと納得していない琉聖さんを尻目に玄関に向かった。


「どうして楽な方を取らない?」


エレベーターに乗り込むと、琉聖さんが言う。


「楽な方を取ったら、それに慣れて贅沢になってしまいます」


「贅沢させることが出来るのだから構わないだろう?」


……別れたら、元の生活に戻るのに……。琉聖さんは何を言っているんだろう……。


「とにかく、ちゃんと今まで通りでいいんです」


エレベーターが一階に到着した。


「……今日だけでも車に乗っていけ」


譲歩してくれたのだろうか……明らかに不機嫌そうな琉聖さんだけど。


私は頷くと桜木さんの待つ車に近づいた。



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