契約妻ですが、とろとろに愛されてます
ハッと目を覚まして壁時計を見た。もうすぐ三時だった。


思ったより寝ちゃった……。


身体を起こすと、ちょうど麻奈が入ってきた所だった。その物音で目を覚ましたらしい。


「柚葉、大丈夫?」


「うん 心配かけちゃってごめんね もう大丈夫」


起き上がっても、眩暈や動悸もない。自分の体調は戻ったと感じた。


「さっきの様子、尋常じゃなかったよ?病院に行った方がいいよ」


「ううん もう何ともないし、さっ!あと二時間半、仕事しなくちゃ」


私は足を降ろしてパンプスに足を入れた。


「ゆず……」


仕事に戻ると言い張った私を麻奈は心配そうにしていたけれど、何でもなかったように就業時間が終わるまで働いた。


制服を着替えて、ロッカーの小さな鏡に映る顔を見ると血の気が全くないように見える。口紅を塗り、チークを叩くと鏡の前で笑みを作ってみる。


これから琉聖さんとデートなのに台無しにしたくない。今日、会わなかったら一週間以上会えなくなる。病院へ行きたくなかったのはそんな想いもあった。


琉聖さんが会社の近くまで迎えに来てくれた。鋭い琉聖さんは私の顔を見ると顔を顰めた。


「柚葉、具合が悪いんじゃないか?」


「悪くないですよ?すごくお腹が空いているんです お食事に連れて行ってください」


「本当か?正直に言ってくれ 言わないとすぐに病院に連れて行く」


「貧血気味なだけです 行った方が良いと言うなら明日行きますから」


「……わかった 明日、必ず病院に行くんだぞ?」


琉聖さんは私の言葉にしぶしぶ頷いた。



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