契約妻ですが、とろとろに愛されてます
三日後、検査をした大学病院から連絡があった。一週間かかると言われたのに少し早い。貧血が見受けられるですぐに来て欲しいと言われた。


貧血気味なのはわかっている。良く眩暈に襲われるから。今朝などは地下鉄の階段を上がる時に立ちくらみをして急いで手すりに掴まった。降りる時でなくて良かったと思った。ただ、すぐに治ってしまうせいで病院へ行くのを躊躇ってしまう。


あと二日経てば琉聖さんに会える。病院へはその後に行こう。私は仕事を理由にいかなかった。


******


琉聖さんは今日の夜、帰国予定。


だけど、今晩会おうとは言われていない。待ちに待った琉聖さん帰国だったけれど、今日は会社の暑気払いの日でもあった。断ると最近付き合いが悪いと言われ、会社の暑気払いに参加することになってしまった。


クーラーのあまり聞いていない居酒屋はたばこと料理の匂いで充満している。その匂いに食欲がなくなっている。


「柚葉?食べてないじゃない?」


隣に座っていた麻奈は天ぷらを小皿に取り分けて私の目の前に置く。


「飲めないんだからたくさん食べなよ」


「うん、ありがとう」


「下山さんって飲めないんだ」


反対側の隣に座っていた同期の神田君が私達の会話に口を挟んだ。


会社の飲み会にはほとんど出ないし、部署も違うので彼とは初めて話した。


神田君は爽やかなスポーツマンタイプで、女子社員からも人気があると聞いている。


「柚葉はビール一杯で酔っ払っちゃうのよ」


近くに座っている佳美先輩も身を乗り出してくる。


「今どき珍しいね?でも、いいね?そう言う子、新鮮で」


神田君が天然記念物でも見るような目で私を見る。


「神田君!柚葉には婚約者がいるんだから言葉に気をつけてよね?左の薬指に注目っ!」


「えっ?婚約?」


会社のほとんどの人に知られていたと思っていたけれど、神田君は知らなかったようだ。麻奈に言われて彼の目が私の左手の薬指に視線が動く。


「うわっ、なんで俺、気づかなかったんだろ」


ぶつぶつと呟いて、コップに半分ほど残っていたビールを一気に飲んだ。


暑気払いは盛り上がり、なかなか抜け出せずに最後まで居てしまった。


二次会まで行ってしまったから一二時近い。帰る方向が一緒だと言うので神田君と一緒にタクシーに乗る。





「わざわざありがとうございましたっ」


家の前にタクシーが到着し降りる前に、神田君ににっこり笑ってお礼を言う。


「へえ~ 本当に俺の家と近いよ」


「遠回りにならなくて良かったです。おやすみなさい」


私はタクシーから降りると、神田君を乗せたタクシーは走り去った。
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