契約妻ですが、とろとろに愛されてます
タクシーを見送った私はふと道路に停まっている車に目を止めた。琉聖さんがいつも乗っている銀色の車体に驚く。


「琉聖さん!」


運転席に会いたかった人を見つけた私は車に向かって走った。


琉聖さんが車から出てきた。


「お帰りなさいっ!」


月明かりが琉聖さんの顔を照らす。あきらかに不機嫌そのものの表情。そんな琉聖さんの顔を見て私の笑顔が消える。


「いつから……?」


かなり待たせてしまったのだろうか……二次会が地下のカラオケルームだったから電波が届かなくて携帯電話をずっと見ていなかった……。


「婚約者が不在だとすぐに違う男を見つけるのか?」


「え?」


琉聖さんの信じられない言葉に、自分の耳を疑った。


「優しくしてくれたか?奴とのセックスは良かったか?」


何を言ってるの……?


冷たく響くその低音の声に私の顔が凍りつく。


「ち、違います!」


急いで否定し、大きく首を振る。


「何が違うんだ?」


「誤解しないでください 送ってもらっただけです」


「言い訳はいい 俺と君はあくまでも金が絡んだ契約だからな」


そう言うと琉聖さんは車に乗り込みエンジンをかけた。


そしてぼう然と立っている私の横を車は通り過ぎて行った。


琉聖……さん……。


悲しくて大きな涙がぽろぽろと頬を伝う。誤解の言葉は私を酷く傷つけた。胸が締め付けられるように痛い。

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