契約妻ですが、とろとろに愛されてます
菜々美さんの行動に驚いた琉聖さんは立ち上がると、今度はソーサーを持ち上げた彼女の腕を掴み止めた。


「何をしているんだ!止めろ!」


私はふたりが揉み合っているのを茫然と見るだけだった。


「彼女に出て行って欲しいんでしょう?」


琉聖さんに掴まれた腕を振りほどこうと身をよじらせる菜々美さん。


「君には関係ない!」


「関係有るわよ!」


騒々しい声に驚いたのだろう、ドアが開き桜木さんが姿を現した。


「柚葉様、申し訳ありません 今日の所はお引き取り下さい」


その場の雰囲気を悟った桜木さんは私の腕をそっと触れた。


「……」


「桜木!早くその女をつまみ出して!」


菜々美さんが叫んでいる。


「菜々美!止めろ!柚葉に暴言は許さない!出て行くのはお前だ」


琉聖さんが菜々美さんに何かを言っているのはわかったけれど、何を言っているのか聞き取れない。私は桜木さんの手を振りほどくと歩き始めた。


気が遠くなりそうだった。琉聖さんはやっぱり菜々美さんを愛しているの?私じゃダメなの?


ぐにゃりと視界が揺れ、呼吸が乱れる。苦しい……。早く外に出たい……。ふらふらと元の道を歩き始めた。


やっとのことでエレベーターのボタンを押すとすぐに扉は開いた。中に入り一階のボタンを押して壁に背を寄りかかる。倒れないでいるのが精一杯だった。顔を歪めた時、自分の顔が鏡に見えた。


なんて酷い顔をしているんだろう……。


菜々美さんの綺麗にお化粧された顔が脳裏をよぎる。私と正反対の人……どうして私なんかに契約を持ちかけたの?あの話がなければ琉聖さんを愛し、こんな想いをしなくて済んだのに……。


意識が飛びそうになった所に、一階の到着を告げる無機質な音が聞こえた。


ふらふらとエレベーターを降りるのがやっとだった。頭がガンガンと響くように痛み出し、気分が悪い。冷や汗なのだろうか、汗が目に入る。


だめ……。


意識を失いそうになるけれど、倒れちゃだめだと思ったのが最後でその後のことがわからなくなった。
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