しろいため息
○ たぶん恋
*
。
+
・
。
「あ…久しぶり」
カランカランと乾いた音をたてながら閉まるドア。
2年前ぶりの再会だった。
昔よくふたりで行っていた裏道にある喫茶店で。
私はストローに口をつけたまま、読みかけの本を閉じるのも忘れて彼をただ見つめた。
2年前、彼の転勤でだんだんと疎遠になった上、風の噂でそこで出会った女とデキ婚したと聞いていた。
もう二度と会うことのない人になるのだと思っていた。
それなのに、目の前に彼がいる。
ライムがほんのり香ったソーダ水を口にふくみ、パチパチと弾ける炭酸を喉に流し込む。
「そうだね、元気だった?」
「んーまぁ…そこそこかな」
眉を顰めながら笑う姿に、2年前抱いていた気持ちが蘇る。
私は彼のことが好きだった。
今、目の前にある笑顔が大好きだった。昔は。二年前は。
「秋になったと思ったら、まだまだ暑いなー」
「うん、暑いね…」
「あ、だから髪結わいてるの?」
ひとつに結われた私の髪を指先でなぞる彼。
壊れやすいものを触るみたいに、優しく指に絡める。
頬が熱い。
少し俯いて、グラスにできた水滴を見つめる。
「そうだけど…変?」
「変なわけないだろ、ただ伸びたなーって思って」
「当たり前じゃん…」
だって2年もたってるんだよ。
伸びない方がおかしいじゃない。
「そりゃそうだよな」
彼は『はは』と短く笑い、アイスコーヒーを飲みながら私に一枚の紙切れを差し出す。
1000円割引と大きくかかれた居酒屋のクーポン券だ。
「本のしおりに使いなよ」
本を開きっぱなしだったのをそこで思い出す。
それを207ページに挟んで、ゆっくり本を閉じる。
読み終わるまであと30ページほどだ。
「あと少しで読み終わるから、連れて行ってよ」
「え…?」
「…居酒屋」
彼は『もちろん』と私の大好きだった笑顔で笑った。
まだ夏は去らないらしい。
。
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「あ…久しぶり」
カランカランと乾いた音をたてながら閉まるドア。
2年前ぶりの再会だった。
昔よくふたりで行っていた裏道にある喫茶店で。
私はストローに口をつけたまま、読みかけの本を閉じるのも忘れて彼をただ見つめた。
2年前、彼の転勤でだんだんと疎遠になった上、風の噂でそこで出会った女とデキ婚したと聞いていた。
もう二度と会うことのない人になるのだと思っていた。
それなのに、目の前に彼がいる。
ライムがほんのり香ったソーダ水を口にふくみ、パチパチと弾ける炭酸を喉に流し込む。
「そうだね、元気だった?」
「んーまぁ…そこそこかな」
眉を顰めながら笑う姿に、2年前抱いていた気持ちが蘇る。
私は彼のことが好きだった。
今、目の前にある笑顔が大好きだった。昔は。二年前は。
「秋になったと思ったら、まだまだ暑いなー」
「うん、暑いね…」
「あ、だから髪結わいてるの?」
ひとつに結われた私の髪を指先でなぞる彼。
壊れやすいものを触るみたいに、優しく指に絡める。
頬が熱い。
少し俯いて、グラスにできた水滴を見つめる。
「そうだけど…変?」
「変なわけないだろ、ただ伸びたなーって思って」
「当たり前じゃん…」
だって2年もたってるんだよ。
伸びない方がおかしいじゃない。
「そりゃそうだよな」
彼は『はは』と短く笑い、アイスコーヒーを飲みながら私に一枚の紙切れを差し出す。
1000円割引と大きくかかれた居酒屋のクーポン券だ。
「本のしおりに使いなよ」
本を開きっぱなしだったのをそこで思い出す。
それを207ページに挟んで、ゆっくり本を閉じる。
読み終わるまであと30ページほどだ。
「あと少しで読み終わるから、連れて行ってよ」
「え…?」
「…居酒屋」
彼は『もちろん』と私の大好きだった笑顔で笑った。
まだ夏は去らないらしい。