オズと霧の浸食過程
黄色いワンピースを着た若い婦人が一人、食料品店に入っていった。



「こんにちは、ランドールさん」


誰もいないように見える店先で、婦人が呼びかける。


するとカウンターの向こうから埃をかぶった主人がひょっこりと顔を出した。



「やあマーシー。いらっしゃい!」


「どうしたの?頭がホコリだらけよ?」


マーシーと呼ばれた婦人がクスクスと笑った。


「いや、ちょっと店の整理をしていてね。今日は何をお探しだい?」


きちんと整理された品物の棚。

しかし、品物の種類は決して多いとは言えない。

毒の霧の被害をギリギリうけない森の入口でとれる木の実や、

店主自らが育てた果物だけ。


豚の肉はもうとっくに売り切れていた。

セブンスダヴリュの村は、もうずっと長いこと交易を行っていない。



「そうね。ランドールがそんなにホコリだらけになってまで頑張ってるんだから……今日はランドールさんにお任せするわ」


「ハハ、そうかい!ならこのニルバスの実がおすすめだよ」


店主が紙袋に、オレンジ色のツヤツヤとした実を三つ、丁寧に詰める。

お金を払ったあとも、二人はしばらく談笑をしていた。


「あら、ランドールさん。カレンダーのページがおかしいわよ」


マーシーは店の奥にデカデカと貼られているカレンダーを指差した。


「おや。下ばかり掃除して、一番目立つところを見落としていたよ」


店主は照れ臭そうに笑った。

大きなめくりカレンダーに手をかけ、一枚を引き剥がす。


新しく現れたページを見て、店主はふとそれをながめた。


「もう蜜月か。ということは……明日が満月だな」


店主がつぶやくと、マーシーが露骨に嫌そうな顔をした。


「あの子が通りに来る日ね」



あの子、というのはオズのことだった。


マーシーに限らず、この村の人間の誰もがオズの名前を聞いたとたん、こんな顔をする。


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