オズと霧の浸食過程
たとえばそれは、彼女の生きがいだった。
たとえばそれは、彼女の暇つぶしだった。
たとえばそれは、彼女が生きているという証だった。
毒の霧と呼ばれる、不思議な色の霧が吹き出す崖のふもと。
オズは三角座りをしてスケッチブックを膝におき、色鉛筆を握っていた。
オズの足元には他にもいくつかの色鉛筆が転がっている。
青色、群青色、紫色、浅葱色――……
青色系統の色鉛筆ばかり。
毒の霧は不規則に色を変え続ける。ちょうど青色のグラデーションのように見えるそれは、“毒をもつ”という欠点さえ無ければ、もっとファンタジックでロマンティックなものになっただろう。
しかし、毒の霧を恐れないオズにとってそれは十分、ファンタジックでロマンティックなものだった。
オズは毎日この崖のふもとで霧のスケッチをしている。
そして時間があまれば、霧だけではなく周囲に咲く植物や、すぐ近くにある池なんかもスケッチして回る。
そうでもしないと、彼女の一日はとても長く退屈すぎるのだ。
退屈を感じる前に、自分にやれることを片っ端からやっていく。
(たとえばそれは、花に名前をつけたり、動物の死骸をつついたり……およそ意味がないことばかりだとしても)
それが、寝ても覚めても一人ぼっちな生活の中で彼女が編み出した“できるだけ楽しく生きていく術”だった。